2.これからのまちづくりの方向 -中心市街地活性化2.0-

(基本的な考え方)

 これまでのまちづくりで注力されてきた中心市街地活性化は、モータリゼーションの中で停滞傾向にあった商店街等の商業機能の回復、向上が中心的な課題であった。中心市街地(まちの中心)の活性化に向けて1998年に成立した中心市街地活性化法は、2006年、2014年に見直されたが、この点が見直されることはなかった。

 そのため、今日、地域の住民やコミュニティにとっての商店街の位置づけが「買物の場」から「多世代が共に暮らし、働く場」へと変化している中、そうした意識の変化を踏まえた施策アプローチが、必ずしも十分でなかった可能性も指摘されている(「地域の持続可能な発展に向けた政策の在り方研究会」中間とりまとめ 。

 こうした問題意識のもと、これからのまちのあり方として、「商店が集まる街」から「生活を支える街」への変革が提起されているが、アフターコロナにおける中心市街地(まちの中心)に対する期待を踏まえると、依然として商店街や生活系の機能に対象を限定した組み立てのように思われる。

 中心市街地活性化法には、第3条(基本理念)に「中心市街地が地域住民等の生活と交流の場であることを踏まえつつ、地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点となるにふさわしい魅力ある市街地の形成を図ることを基本とし」と記されているが、「地域住民等の生活と交流の場であることを踏まえつつ」との文言があるせいか、経済的活動の拠点としての機能は、一部地域の計画を除くと、商業施設等、主として圏域の生活者を対象とする非基盤産業に限定されている。

 これは、市町村マスタープランの高度化版として全国559団体(2020年12月末)で取り組まれている「立地適正化計画」においても同様で、都市再生に向けた都市機能立地の誘導が意図されているものの、都市の居住者以外の者の宿泊のみに特化した宿泊施設や、都市の居住者の共同の福祉や利便に寄与しないオフィスは誘導施設から除外されている。

 一方、地方創生に向けて、地域の「稼ぐ力」の強化の必要性が喧伝され、その実現に向けて地域再生計画に基づく「地方拠点強化税制」により、本社機能(事務所、研究所、研修所)の地方移転が推進されてきたが、中心市街地活性化や立地適正化とこうした地域再生計画に基づく取組はほとんど結び付けて対応されてこなかった 。

 しかしながら、地方都市の場合、本社機能を含む業務機能の立地点は中心市街地(まちの中心)である場合が多く、中心市街地活性化のためには、業務機能も積極的に対象とすることによって、施策の効果を高めることが可能であると思われる。例えば、中小企業庁が2017年3月に公表した空き店舗実態調査報告書によれば、空店舗の解体・撤去後の利用が商店街に与えた影響について、「オフィス」は好影響を及ぼしたという回答が57.1%を占める。これは、新しい店舗59.7%、商店街の共同利用施設52.4%とほぼ同様の回答率であり、駐車場19.3%、住宅の6.6%と比べてはるかに高い。実際、ここにきて日南市油津商店街のように、IT企業の誘致を通じて商店街の活性化に成果をあげた地域も登場してきているのである。

 今日、求められている中心市街地(まちの中心)の役割は、地域の稼ぐ力を支える業務機能等、まちの中心に立地する産業機能を含み、よりトータルにまちの活性化を担う機能が集積する拠点であり、中心市街地活性化方策も、こうした問題意識のもとで組み立て直す必要があるのではないだろうか。コロナ禍のもとで、新たな生産活動、生活行動が浸透することを踏まえ、考え方を転換する必要性が高まったと思われる。

 コロナ禍を経て明らかになってきた新たな課題認識のもとで、改めて、新しい価値の創造に資する「地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点」の実現を目指すべきだと考える。

 こうした思いを込めて、これからの中心市街地(まちの中心)におけるまちづくりの方向を「中心市街地活性化2.0」と名付け、その展開を図ることを提起したい。

(取組の基本方向)

 「中心市街地活性化2.0」の推進に当たっては、新しい視点のもとで「まちの稼ぐ力と集客力の強化」「新しいまちの機能と空間の整備」「新しいまちづくりスキームの確立」を推進することが重要である。

  • まちの稼ぐ力と集客力の強化

 コロナ禍を機に、業務機能の郊外立地、地方分散が進む中、これからの中心市街地(まちの中心)は、稼ぐ力の強化に寄与する中心業務地区(CBD)としての役割を強めるべきだと考えられる。本社機能や、高次の専門サービス業等、域外需要を受け止め、対象地域(都市圏)の地域経済を支える基盤産業の集積形成や、外需の誘導に向けた集客力の強化が重要性を増すだろう。

 実際、海外における中心市街地(まちの中心)の整備に当たっては、中小都市であっても、地域経済を支えるクリエイティブ産業の振興や、コンベンション等のビジネス交流を中核機能に据える例が散見される。

 また、我が国の地方都市でも、日南市や塩尻市等、中心市街地(まちの中心)において業務機能の誘導を進める都市が輩出しつつあり、こうした地域では、地域のコミュニティとも連携した職住近接型の産業集積が形成されている 。

 我が国の中心市街地活性化も、地域再生計画との連携を視野に置き、こうした地域の稼ぐ力を支える産業振興を含む包括的な産業・機能の立地に資する空間整備の視点のもとで展開することが望まれる。

 

  • 新しいまちの機能と空間の整備

 中心市街地(まちの中心)が、これからもそのポテンシャルを発揮し、地域活性化に貢献するためには、アフターコロナにおける地域再編、情報化の進展等を踏まえた新しい生産活動や生活行動に対応した機能と空間の整備を推進する必要がある。

 機能面では、これまでも集積が目指されていた、①商業等の圏域に対するサービス機能(非基盤産業、公共施設)、②都市型住宅、➂交通基盤・アメニティに加えて、④業務機能(基盤産業)を構成機能のひとつに位置づける必要がある。業務機能としては、地方分散が注力されている本社機能(事務所、研究所、研修所)の他、システム・コンテンツ等の開発機能や、インキュベーション施設、シェアオフィス等の集積支援機能を立地させることが想定される 。

 こうした中心市街地(まちの中心)における機能集積の形成に当たっては、これらの機能をできるだけ有機的に連携させることが望ましい。例えば、職住近接型の地域では女性が働きやすくするために、まちなかにおける託児所等の整備が重要になってくる。また、職住近接型の中心市街地(まちの中心)は、生活者だけでなく、就業者が活動する場となる。それだけに、自宅(ファーストプレイス)でも職場・学校(セカンドプレイス)でもない、居心地の良い時間を過ごせる場として「サードプレイス」を形成することも重要である。

 空間的には、集積のメリットを活かすためにも、徒歩や自転車を主要な交通手段とするコンパクトな市街地整備が重要である。こうした近未来の職住近接型の都市のイメージとしては、パリ市アンヌ・イダルゴ市長が提案している「自転車で15分の街」というシンボリックなコンセプトがわかりやすい。2024年までに誰もが車なしでも15分で仕事、学校、買い物、公園、そしてあらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指すというビジョンである。職住近接が基本となるアフターコロナのコミュニティは、このコンセプトに近い空間を目指すべきだと思われる。

 インフラとしては、コロナ禍を機に普及、浸透が進んだ情報基盤の重要性が高まるはずだ。デジタル化が進んだ社会像としてSociety5.0の実現が推進される中、都市のエネルギーマネジメントはもとより、ICTの活用を通じて、多様なコミュニティサービスが提供されるようになる可能性が高い。

 

  • 新しいまちづくりスキームの確立

 これからのまちづくりでは、まちづくりの仕組みにもこれまでより柔軟な発想が求められる。もちろん、まちづくりに当たって地域が自主性をもって取り組むことが必須であることはいうまでもない。企画力を備えたまちづくり会社等が中心となって、関係者と連携し、地域主体のまちづくりを行うことが基本であるが、地域を取り巻く環境変化の中で、外部地域との交流や、外部機関との連携がこれまで以上に重要になると考えられる。

 特に、中心市街地(まちの中心)が提供するサービスの高度化に当たっては、組織や地域の枠を超えて、商品・サービスの需要家と供給主体を結び付け、新たな価値を生み出す「アグリゲーター」と呼ばれるサービス提供事業者と連携し、高度なサービスを実現できる可能性がある。

 端的な例は、キャッシュレスの導入に向けて全国各地で利用が進んだLINE payやpay pay等の決済用プラットフォームだろう。最近では、より地域に即したサービスとして地域通貨の発行、決済を担う「chiika」「おまかせeマネー」等のプラットフォームサービスも輩出しつつある。さらに、介護サービス、空き家マッチングサービス、農産品流通等、サービス対象が広がってきているのである。

 こうしたプラットフォーム型のサービス提供が進む中で、地域の主体性を確保しつつ、域外との連携による地域経営スキームを確立することが地域運営の選択肢となる。経済産業省が設置した「地域の持続可能な発展に向けた政策の在り方研究会」が提案する「MAP'S+O 」はこうした外部との連携を視野においたこれからの地域のマネジメントモデルといえる。

 さらに、まちづくりの財源を確保する仕組みとして、「地域再生エリアマネジメント負担金制度(日本版BID)」等、官民連携による仕組みづくに向けた環境整備も進みつつある。拡充が進む制度条件も踏まえて、まちづくりの将来像と取り組むべき事業の実現に向けて、効果的なスキームを構築することが望まれる。

 こうした様々な取組の展開に当たっては、中心市街地活性化計画と地域再生計画の連携に基づく施策の展開や、立地適正化計画との関係の整理等、現時点では様々な分野の調整が必要である。繰り返しになるが、関係機関の調整に当たって、地域の主体性の確保が大切であることは言を俟たない。多数の地域関係者の参画のもと、まちづくり会社等、特定地区の管理運営団体が市町村とも連携し、地域主導型のまちづくりに取り組むことが重要である。