1.コロナ禍で変わるまちづくり

1-1 コロナ禍を機に進む郊外化・地方分散

 はじめに今後のまちづくりを考えるうえで注目すべき社会環境の変化を確認することにする。

 まず押さえておくべき変化は、東京圏における郊外化や地方分散の進展である。

 

(東京からの人口流出)

  • 2021年1月29日に総務省が公表した住民基本台帳に基づく2020年の人口移動報告によると、東京都の人口移動は7月から6か月連続で転出者が転入者を上回っており、東京都への一極集中の流れが変わりつつある。昨年1年間の東京都の転入超過は3万1,125人であり、まだ転入超過であるが、その規模は約5.2万人減少し、2019年の4割以下に縮小している。
  • その他の地域について、2019年と2020年を比較すると、東京圏に位置する埼玉県、千葉県、神奈川県は転入者数がほぼ横ばいであった。また、もともと転入超過の大阪府、福岡県では転入者数が増加し、それ以外の地域では。わずかではあるが、転出超過傾向が緩和された。
  • 今後の推移を確認することが必要ではあるものの、東京一極集中が加速していた国土構造について潮目の変化を感じさせる。

(東京に集中していたオフィス立地の見直し)

  • 東京への集中傾向が落ち着きをみせた要因は、まず新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動の停滞であるが、三密を避けた就業形態が奨励されるなかで、東京都心部のオフィスで出社制限が行われ、テレワークが普及してきたことも大きい。最近では東京都心に集中していたオフィスのあり方の見直しを発表する企業も増えている。
  • オフィスに対する企業の考え方の変化を実感させた象徴的な例は、電通の本社ビル売却の検討。48階建て約9,000人の社員が勤務しているが、感染防止のためオフィスの出社率が約2割となり、業績悪化と相まって、売却も含めた検討が行われている。
  • また、富士通はオフィス出社率を25%に抑えるとともに、今後約3年でオフィス面積を半減させる計画を進めている。配属地以外での遠隔勤務を認め、単身赴任の解消につなげる等、最適な働き方の実現、社内カルチャーの変革にも取り組む。
  • さらに、千代田区に本社を構える人材派遣会社パソナは、兵庫県の淡路島へ本社機能の一部を移転。淡路市の複合文化リゾート施設を活用し、2020年末で約500人が勤務中であり、2024年5月までに、東京本社で勤務するグループ約1,800人のうち約1,200人を移動させると公表している。さらにJAL等、ワーケーションの導入を行う企業が増えつつあり、就業の場の自由度は確実に高まりつつある。
  • こうした動きは大企業ほどではないが、中小企業でも進行している。一時的対応でなくオフィスや就業制度が見直される中で、東京からの分散志向が定着する可能性が高い。

(地方分散を推進する政策展開)

  • オフィス分散の動きは、地方拠点強化税制等、政府が推進してきた地方分散政策とも合致する。現下の状況を踏まえて分散の加速に向けた政策も展開されている。
  • 一例として、2020年度の第3次補正では、「地方創生テレワーク交付金」100億円が計上されている。地方でのサテライトオフィスの開設やテレワークを活用した移住・滞在の取組等を支援することにより、地方への新しい人の流れを創出し、東京圏への一極集中是正、地方分散型の活力ある地域社会の実現を狙いとする。

1-2 一層の情報化の進展

 分散型の社会システムが構築される中で、インフラとして改めて大きな役割を果たしたのが、情報基盤としてのインターネット活用の普及・浸透である。当たり前になったネット利用が、コロナ禍後も人々の生産活動や生活行動に大きな変化をもたらすと予想される。

 

(テレワーク)

  • 産業活動の面では、コロナ禍が拡大する中、テレワークの利用が拡大を見せた。政府、自治体の要請もあり、東京都心部に本社を構える大手企業を中心にテレワークの導入が広まった。
  • 内閣府が昨年末に公表した調査によれば、2020年12月時点のテレワーク実施率は全国で21.5%(東京都23区42.8%)であり、2019年12月の10.3%(東京都23区17.8%)と比較すると大きく増加している。コロナ禍を機に、テレワークの利用が浸透しており、コロナ禍終息後もテレワークを希望する割合が高いことを示す調査結果もある。
  • 先述のとおり、東京に本社を構える大手企業を中心に、オフィスのあり方を見直す動きが顕在化している。本社への拠点集約の動きにかわり、在宅勤務の拡大や様々な場所にワークスペースを整備する取組が目立つ。

(テレワークの普及に伴い増える地方への転職希望)

  • テレワークの普及は20歳代のU・Iターンや地方での転職希望へも影響をもたらしている。先の内閣府の調査によれば、20歳代の東京圏在住者で、地方移住に関心を示す回答率は2019年12月の11.3%から、2020年12月には15.7%へと、4.4ポイント増加している。主な理由として、「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」等があげられている。
  • また、マイナビが2021年3月卒業予定の全国の大学生、大学院生(7,263名)を対象に行った調査によれば、テレワークやリモートワークの推進が進み、働く場所が自由になった際の勤務地・居住地域の理想について、勤務地、居住地とも に 2 人に 1 人が地方を希望している。さらに、ふるさと回帰支援センターへの来訪者、問い合わせ数が増加傾向にあり、特に40歳未満の相談件数の増加が著しいとの報告もある(国土交通省調査)。
  • こうした調査結果から、今後、テレワークの普及と相まって就業の場、生活の場の再編が進むことが想定される。

(ネット消費の拡大)

  • 人々の生活の側面では、ネットショッピングの拡大が進行した。家計調査によれば、ネットショッピングを利用する世帯の割合は、コロナ禍のもとで増加が顕著となり、2020年5月には利用世帯の割合が初めて5割を超えた。
  • 2020年12月度における1世帯当たりのネットショッピングの月間支出額は平均2万1,579円(名目増減率は前年同月比23.6%増)。増加に対す寄与度は、食料、贈答品、衣類・履物、家電が高い。

(スマートシティ/スーパーシティ)

  • コロナ禍は、都市における情報通信技術の利活用を加速するスマートシティやスーパーシティの取組にも影響を与えている。
  • スマートシティは、「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」(国土交通省)のことであり、我が国が目指すsociety5.0における都市・地域のモデルということができる。エネルギー等、都市インフラのマネジメントに関する取組が多いが、その提供サービスが拡大しつつある。例えば、コロナ禍が広まる中で、各国で情報技術を活用した検査・追跡、隔離・接触低減策が一定の成果を上げており、都市のレジリエンス(強靭性)強化の面からの期待が高まった。
  • 関連して、我が国では2020年5月27日に国家戦略特別区域法等の改正法案(スーパーシティ法案)が成立し、取組の加速が期待されている。「スーパーシティ」構想は、様々なデータを分野横断的に収集、整理し「データ連携基盤」を構築し、地域住民等にサービスを提供することで、住民福祉・利便向上を図る都市と定義されている。なお、スーパーシティは、スマートシティがエネルギー等の部分から始めてインテグレート(統合)するアプローチだったとするならば、最初から全体最適を狙った構想とされている。構成要素として下記の10項目があげられており、包括的な取組が見込まれる。

 

  • 移動:自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理等
  • 物流:自動配送、ドローン配達等
  • 支払い:キャッシュレス等
  • 行政:ワンスオンリー等
  • 医療・介護:AI ホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療、医薬品配達等
  • 教育:AI 活用、遠隔教育等
  • エネルギー・水:データ活用によるスマートシステム等
  • 環境・ゴミ:データ活用によるスマートシステム等
  • 防災:緊急時の自立エネルギー供給、防災システム等
  • 防犯・安全:ロボット監視等

1-3 変わる生産活動・生活行動と中心市街地(まちの中心)の役割

 以上の環境変化を踏まえて、中心市街地(まちの中心)における生産活動と生活行動について想定される変化を整理してみよう。

 

(生産活動の変化)

  • 既に述べたように、コロナ禍のもと、大手企業を中心にテレワークの進展に伴うオフィス立地の見直しが進んでおり、より柔軟な就業形態が広まることが見込まれる。コロナ禍が長期にわたったこともあり、企業のオフィス立地、就業制度のあり方自体が見直されつつある。都心部に立地するオフィスのコスト負担軽減ニーズと相まって、事業所立地の分散が進展すると考えられる。
  • オフィスの分散先としては、現在人口が流出している埼玉、千葉、神奈川等の大都市圏郊外部や、福岡市等地方中枢・中核都市が先行すると考えられるが、リゾート地や観光地で業務を行うワーケーション等の動きもあり、より柔軟な機能立地が進むことも想定される。
  • オフィスを中心とする産業立地・業務地域の柔軟化に伴い、人々のワークスタイルも自由度が高まることが見込まれる。郊外部や地方都市における就業ニーズが高いこと、大都市圏における通勤時間の長さに対する不満等を考慮すると、職住近接を基本として、対面のコミュニケーションが必要な会議等、必要な場合に限って事業所に出社するワークスタイルが浸透すると想定される。
  • 一方、直接顧客へサービスを提供することが必要な飲食業や、理容業等の対消費者サービス業については、ホームデリバリー等、一部ネットに移行するものが出てきてはいるものの、相対のサービスが基本である。こうした業種は、コロナ禍で閉店を余儀なくされている事業所が多いが、コロナ禍終息後は、消費者ニーズの回復に応じて、ある程度までコロナ禍前と同様のサービスが提供されるようになると考えられる。ただし、コロナ禍が長期に及んだことで廃業を選択した事業所も多く、消費者の生活様式が変化していることから、事業所の形態やサービス内容が変化することも考えられる。

(生活行動の変化)

  • 生活行動の面では、就業者の居住地、就業形態の変化に伴い、買物、就学、余暇活動、コミュニティ活動等に係る生活様式の変容が見込まれる。
  • これらの変化は、大きくは①会食、スポーツ、文化活動等、三密回避で本来のニーズが抑制されている行動と、②在宅勤務、WEB会議等、コロナ禍対応で意識の変化がもたらされた行動に分けて考えることができるだろう。前者についてはコロナ禍終息後にコロナ禍前の状態に戻っていくことが想定されるが、後者については、新しい生活様式として、今後も継続すると考えられる。
  • コロナ禍のもとで実施された調査等も参考にすると、例えば、次のような行動変容が想定される。
    • 買物:三密対策で「ネットショッピング」「キャッシュレス決済サービス」等が増えた。政府が普及に力を注いでいるキャッシュレス決済は引き続き増加する一方で、利便性を重視するネットショッピングと、体験価値を重視するリアルショッピングの使い分けが定着
    • 飲食:三密回避のため、「店内飲食」が落ち込む中で、「デリバリー」「テイクアウト」が増加。こうしたスタイルが浸透する一方で、潜在的な顧客ニーズに対応しコロナ禍前への回帰が進行
    • 交際やつきあい、趣味や娯楽、スポーツ:三密抑制のため抑制されているが、潜在的な活動ニーズは継続しており、コロナ禍前への回帰が進行
  • 野村総合研究所が3,000人を対象に実施した生活者意識調査 によれば、生活者の満足度は2019年の60%から、2020年5月50%、12月40%と大きく低下しており、行動制約に対する不満が蓄積されていることが窺われる。そのため、コロナ禍が終息した場合、短期的にはリバウンドが起こり、急速にコロナ禍前へ回帰することも考えられる。

(中心市街地(まちの中心)への期待)

  • 生産活動や生活行動の変化に伴い、中心市街地(まちの中心)に対する期待も変化するだろう。コロナ禍のもとでは、三密を避けるため中心市街地(まちの中心)は生活必需品等の提供が求められる一方で、営業時間の短縮等活動の抑制が求められ、矛盾したニーズへの対応を余儀なくされてきた。しかしアフターコロナの社会では、こうした矛盾が解消し、中心市街地(まちの中心)が本来有している周辺地域への交通利便性や、集積のメリットを活かした空間、機能の提供を果たすことが可能となる。
  • その結果、生産活動の面では、分散する業務機能等の立地点として、中心市街地(まちの中心)が選択され、地域の稼ぐ力を担う基盤産業(域外を主たる販売市場とした産業)の集積が進む可能性が高い。
  • また、郊外や地方における職住のバランスが進むため、非基盤産業(域内を主たる販売市場としている産業)や、公共公益施設等に対するニーズも高まる。もちろん流通構造が変化するため、ネットショッピング、デリバリー等、ネット化が進展する中で一部のリアルサービスは縮小が見込まれるが、就業の場、つきあい・交流等、リアルの場における潜在的な活動ニーズは高いと考えられる。
  • これからのまちづくりは、このような中心市街地(まちの中心)の強みと、そこに対するニーズの変化を踏まえて、機能、空間の再編に取り組むべきだと考えられる。問題は、現在の中心市街地活性化方策が、業務機能の立地促進に対応できていないことである。